[会長挨拶]
近年、子どもの表現力の低下が指摘され、特に国語力不足に問題があるとして盛んに議論されるようになってきました。しかし、現在のような過密下の教育体制では、個々の生徒の能力に応じて作文力や文章力の向上を図ることは、なかなか難しい状況だと言わざるを得ません。
子どもは本来、文章を書いたり、本を読んだりすることが大好きなはずです。それがいつの間にか「作文嫌い、読書嫌い」になってしまうのはなぜでしょうか。その原因の一つは、今の子どもがあまりにも習いごとや塾通いで忙しく、じっくり文を書いたり、ゆっくり本を読んだりする時間がないからだと考えられます。さらに、最近はネットのインフラが充実し、子どもでもスマホやタブレットで、安易に様々な情報に時間を奪われる(例えば、マンガやゲームに夢中になる)ようになったことも、新たな原因の一つに加えられるかもしれません。
しかし、小さい子どもを持つ親御さんとしては、何とかしなければいけないという危機感はあるにしても、実際には子どもにどう接していけばいいのか、分からなくて戸惑っているというのが現状になっているのだといえます。子どもがきちんと文章が書けるようになったり、しっかり本が読めるようになるには、それ相応の練習時間が必要となります。しかしながら、親が子どもに毎日作文を書かせたり、本を読むように薦めたりするというのも、現実的には無理な相談になっているのでしょう。
当学会では、そういう点も考慮して、子どもが無理なく作文や読書にチャレンジできるように、いろいろ議論を重ねてきました。その結果、次の二点をスローガンとして掲げることになりました。
①作文は、1回の授業時間内で数本書ける力を身につけよう。
②読書は、2週間に一冊の読破ペースで、読解力を身につけよう。
作文や読書は一定の時間で習得することを基本方針としていますので、子どもにはそんなに負担にならず、楽しみながらチャレンジしていくことができます。何より、子どもが独力で何年も継続することができますので、小学校を終えて学校を卒業するころにはしっかりと文章が書けるし、内容の複雑な本でも難なく読みこなすことができるようになります。
差し当たり、子どもが200字作文を楽しく書くことから始めれば、将来的には「状況把握」「分析力」「表現力」「創造力」が身につき、論旨の通った立派な文章が書けるようになるでしょう。さらには「考える力」「感じる力」「創造する力」をも発揮できるようになり、より完成度の高い文章が書け、どんな本でも読めるようになることは間違いないと思われます。
なお、この学会は堅苦しい学会とは異なり、会員が自由な発想で作文や読書の在り方を研究し実践しようとするもので、どんな分野の人でも、研究に参加できるようにという考えで発足しました。なぜなら、メンバーには多数の理系出身者が入っているために、文系出身者だけでは気がつかない別の視点からの議論やアプローチが可能になるよう配慮したからです。従って、より広い視野から国語教育の在り方を研究し、実践することが大切であるということが当学会の共通認識になっております。
最後に、当学会では先ず教育的マンガを素材とした研究成果を世に問うことになりましたが、現在は、漱石の『夢十夜』を教材とするような授業も可能となり、当初は夢にも思っていなかったカリキュラムを実施していて、当事者としては喜びに堪えません。このような機会に恵まれ、会員一同は大変勇気づけられています。今後もさらに研鑽を重ねて参りますので、ご指導の程をよろしくお願い申し上げます。
会長:窪田守弘(くぼたもりひろ)
